【7月17日生まれの有名人】 静かな炎を持つ名優――ドナルド・サザーランドの軌跡
1950年代後半、テレビが家庭に普及し始め、映画の黄金期が一つの転換点を迎えていた。その時代に静かに登場し、半世紀以上にわたって観客を魅了し続けた俳優がいる。ドナルド・サザーランド――カナダ出身のこの名優は、派手さを避け、内面からにじみ出る存在感で人々の記憶に深く刻まれてきた。

■ カナダの小さな町から
ドナルド・マクニコル・サザーランドは1935年7月17日、カナダ・ニューブランズウィック州セントジョンに生まれた。子供の頃は病弱で、リウマチ熱や小児麻痺、脳膜炎など、重い病気を経験したという。そんな彼にとって、物語の世界は逃避先であり、自己表現の手段だった。
大学では最初、工学を学んでいたが、演劇への情熱が彼を方向転換させた。トロント大学で演劇を学んだ後、イギリスに渡りロンドン音楽演劇芸術アカデミー(LAMDA)でさらに修練を積む。この英国留学が、のちの彼の落ち着きと知性を感じさせる演技の礎となる。
■ 映画『M★A★S★H』で一気にブレイク
1960年代、テレビドラマやB級ホラー映画への出演を経て、彼の名が世界に知られるようになったのは、1970年の**反戦ブラックコメディ映画『M★A★S★H(マッシュ)』**だった。
朝鮮戦争中の野戦病院を舞台に、軍の権威主義を皮肉たっぷりに描いたこの作品で、サザーランドは陽気で皮肉屋な外科医ホークアイを演じた。ユーモアと知性を兼ね備えた演技で、一躍時代の顔となった。
興味深い裏話として、当時のサザーランドは、共演者のエリオット・グールドとともに、監督ロバート・アルトマンを解任しようとスタジオに働きかけたと言われている。しかし、結果的にこの映画はカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、アルトマンはその後のキャリアを大きく飛躍させた。

■ 知的で陰影のある役柄を好む
サザーランドの魅力は、静かな中にある緊張感と知性だ。善人でも悪人でも、「ただの顔のいい俳優」にはならず、常に人間の複雑さを内包して演じる。代表作には以下のような映画がある。
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『普通の人々(1980)』:息子を失った家族の再生を描く作品で、冷淡な父親役を繊細に演じる。
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『カサノバ』(2005):老練な役どころで深みを見せる。
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『ハンガー・ゲーム』シリーズ(2012〜):独裁者スノー大統領を演じ、その威圧感と理知的な冷酷さで若い世代にも鮮烈な印象を残した。
また、テレビドラマ『市長 マッカーシー』では、政治の裏側にいる老人の役を演じ、「陰の権力者」を象徴するような存在として高く評価された。
■ 名優にして名脇役、そして父として
ドナルド・サザーランドは、時には主演、時には助演に回りながらも、どの役でも決して主役を食わず、しかし観客の記憶に残る芝居を見せることに長けている。彼の演技は、決して声を荒げない。だが、その静けさの中に観る者の心を揺さぶる力がある。
私生活では俳優キーファー・サザーランドの父としても知られる。キーファーは『24 -TWENTY FOUR-』のジャック・バウアー役で有名だが、その「どこか不安定で熱い男」というキャラクターは、父親の陰影のある演技から少なからず影響を受けているだろう。

■ 晩年でも、静かに輝き続ける
80歳を超えてもなお、サザーランドは映画やドラマに出演し続けていた。**2021年にはApple TV+ドラマ『The Undoing』に出演し、再び注目を集めた。
彼はかつてインタビューでこう語った。
「私は俳優である前に、観察者でありたい。人生は観察する価値に満ちているから。」
この言葉通り、彼はスクリーンの中で“語らないこと”を通じて、私たちに語りかけてくる。
■ 最後に
名声を追い求めず、賞にも執着しない。しかし、映画史の節目節目に彼は確かに存在していた。
ドナルド・サザーランドとは、言葉にしきれない“重み”を持つ俳優である。派手な主役には向かないが、彼が画面にいるだけで、物語に深みとリアリティが加わる。そういう俳優が世界に一人でもいる限り、映画はまだまだ進化し続けるに違いない。