【8月28日生まれの偉人】ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ──文学と科学を越境した巨人
幼少期と多彩な教育
1749年8月28日、ドイツの自由都市フランクフルト・アム・マインにヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは生まれました。父親ヨハン・カスパール・ゲーテは厳格な法曹家で、母親カタリーナは明るく社交的な女性でした。この両親の影響から、ゲーテは幼い頃から規律と自由、論理と感性の両方を吸収する環境に恵まれました。
家庭教育は非常に充実しており、ラテン語・ギリシャ語・フランス語・イタリア語を学び、古典文学や聖書に親しみました。また音楽や絵画にも関心を持ち、芸術的才能を発揮。早くも10代の頃には自作の詩や戯曲を友人たちに披露し、周囲からは“神童”として一目置かれていたといいます。

青年期と『若きウェルテルの悩み』
1765年、16歳のゲーテはライプツィヒ大学に入学し法律を学びますが、同時に詩作にも熱中しました。学生生活の中で恋愛に悩み、失恋も経験したことが後の文学に大きな影響を与えます。
そして1774年、25歳で出版した小説『若きウェルテルの悩み』はヨーロッパに爆発的な反響を巻き起こしました。青年ウェルテルが叶わぬ恋に苦悩し、最後には自ら命を絶つ物語は、当時の若者たちの心を直撃。「ウェルテル熱」と呼ばれる社会現象が起き、ウェルテルと同じ青い服と黄色いズボンを真似する若者が街にあふれました。さらには作品に感化された自殺者が相次いだとも伝えられています。
このセンセーションによってゲーテは一夜にして「時代の寵児」となり、ヨーロッパ中にその名を轟かせました。
ワイマールでの政治と文化
1775年、26歳のゲーテはヴァイマル公カール・アウグストに招かれ、宮廷顧問官として仕えることになりました。政治家として鉱山の管理、道路建設、軍事、財政など幅広い分野に従事。若き詩人が行政官としても優れた手腕を発揮したことは驚きですが、ゲーテにとっては文学と同じく「人間社会を理解する実験の場」でもあったといえます。
ワイマール時代に出会った最大の人物が、同じ詩人フリードリヒ・シラーでした。二人は当初こそ距離を置いていましたが、やがて互いを尊敬し合い、「ワイマール古典主義」と呼ばれる文学運動を築き上げます。ゲーテとシラーの友情と共同は、ドイツ文学史における黄金期を象徴するものとなりました。

科学者ゲーテ──自然への探究心
ゲーテは単なる文豪ではなく、科学者としても活動しました。植物学においては「植物の変形論」を発表し、すべての植物器官は葉の変形であると唱えています。
また「色彩論」ではニュートンの光学理論に異議を唱え、色を人間の知覚と結びつけて考察しました。この理論は物理学的には正確ではありませんが、後世の心理学・芸術学に大きな影響を与えました。実際、画家カンディンスキーやバウハウスの教育理念にもゲーテの色彩論は引用されています。
つまりゲーテは「文学者でありながら科学の言葉で世界を理解しようとした人物」だったのです。
『ファウスト』──人間存在の究極のドラマ
ゲーテの生涯の集大成が戯曲『ファウスト』です。若き日に構想を抱き、晩年まで60年以上にわたって書き継がれたこの大作は、人間の欲望と真理追求をめぐる壮大な物語です。
主人公ファウスト博士は、学問を極めながらも満たされず、悪魔メフィストフェレスと契約します。享楽、恋愛、罪、贖罪──あらゆる経験を経て、人間の存在の意味を探し求める姿は、まさに「人間とは何か」という問いに直結しています。
この作品は、ドイツ文学のみならず世界文学の最高峰として今も読み継がれ、音楽・演劇・哲学など幅広い分野に影響を与えています。
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晩年と最期の言葉
晩年のゲーテは、ワイマールに定住しながら自伝『詩と真実』を執筆。そこには青年時代からの成長や思想の変遷が描かれ、文学史的にも貴重な記録となっています。
1832年3月22日、82歳で亡くなったゲーテの最期の言葉は「もっと光を!(Mehr Licht!)」だったと伝えられています。この言葉は「人間は常に知を求め、光を求めて生きる」というゲーテの人生観を象徴するものとして、今日まで語り継がれています。
ゲーテの名言から学ぶ
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「知るだけでは足りない。応用せねばならない。思うだけでは足りない。行わねばならない。」
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「恋する者は、見えないものを見、聞こえないものを聞き、感じられないものを感じる。」
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「もっと光を!」
これらの言葉は、現代を生きる私たちにも行動力と知恵を与えてくれます。
『若きウェルテルの悩み』で人々の心を揺さぶり、『ファウスト』で人間存在の核心を描いた彼の人生は、まさに「知と情熱の融合」。ゲーテが求め続けた「光」は、200年近く経った今も、私たちに知恵と勇気を与え続けています。


